あなたにぴったりの牛乳は?

牛乳がわかるQ&A

牛乳の栄養成分

  • 5.牛乳は完全栄養食品?

    牛乳は完全栄養食品ではありませんが、栄養バランスに 優れた準完全栄養食品です。たんぱく質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンをバランス良く含んでいます。
    他の食品と比較して栄養バランスが非常に良いため、昔か ら「完全栄養食」と考えられていたのかもしれません。
    牛乳は1日の摂取必要量に比べて鉄、ビタミンC、食物繊維の含有量が少ないため、栄養バランスが良いからといって牛乳ばかりを多量に摂取すると健康を損ねてしまう可能性が あります。国が進める食育政策で示されている食生活指針でも、食事のバランスを考慮し、「食事バランスガイド」などを参考に、1日30品目の食品を摂取するなどバラエティーに富 んだ食生活を送ることが推奨されています。
  • 6.栄養素密度とは?牛乳との関係は?

    食品重量100gあたりのカルシウム量

    栄養素密度とは、食品のエネルギー100kcalあたりに含まれる栄養素の量です。
    牛乳は、栄養素密度が高く、少ないエネルギー量で同じ量の栄養素を摂取できる優れた食品です。 従来、食品の栄養価は、食品重量100gあたりにどれだけ栄養素が含まれているかで表しました。この場合、食品に含まれる水分量により実際の栄養素の量は違ってきます。例えば、水分88%の牛乳と水分50%の「めざし」では、100g中にめざしのほうがはるかに多くのカルシウムを含みます(上の表参照)。
    これに対し、食品のエネルギー量あたりの栄養素量を比較する栄養素密度の考え方では、食品のエネルギー100kcalあたりにどれだけの量の栄養素が含まれているかで表します。例えば、牛乳とめざしのカルシウム量を栄養素密度で比較すると、牛乳は100kcalあたり164mg、めざしは131mgで逆転します(上の表参照)。
    近年ますますダイエットに対する関心が高まっていますが、ダイエットの基本は摂取エネルギーの総量を減らすことです。しかし、必要な栄養素が不足すると健康に悪影響を及ぼします。また高齢者の場合、必要なエネルギー量は少なくなりますが、必要な栄養素成分の量は大きくは変わりません。したがって、必要とされる栄養素を、より少ないエネルギーで効率良く摂取するために栄養素密度の考え方が重要となってきます。

  • 7.高温殺菌すると牛乳の栄養は損なわれる?

    牛乳成分は高温殺菌の加熱で大きく変化することはありません。牛乳のたんぱく質は加熱により変性しますが、栄養価には変化はありません。「変性」という言葉が、悪いものに変わると誤解されているようです。牛乳の殺菌方法には大きく分けて5種類ありますが、日本では9割以上がUHT殺菌という超高温瞬間殺菌法(120〜130℃、1〜3秒加熱殺菌)により殺菌されています。
    120℃以上で加熱すると、牛乳中のたんぱく質は加熱変性を起こします。変性とは、たんぱく質の立体構造が変化する ことで、卵を加熱してゆで卵や目玉焼きにしたり、肉や魚を煮たり焼いたりするときに起こる変化と同じです。焦げのできるような極端に厳しい加熱温度と加熱時間の場合は別ですが、加熱による変性でたんぱく質のアミノ酸組成が変わるわけではなく、栄養価には変化はありません。むしろ加熱変性により消化性が高まるため、相対的な栄養価は上昇します。牛乳中のカルシウムはUHT殺菌により一部が不溶化しますが、冷えると大部分が元の状態に戻ります。ビタミンCは熱に弱いですが、ビタミンA、B1、B2は加熱による影響は受けません。
  • 8.成分無調整とは?

    牛乳類の種類

    成分無調整とは、生乳を殺菌して牛乳を製造する工程で、成分を調整していないことです(上表参照)。
    乳等省令が定 める「牛乳」とは、生乳100%、成分無調整で、乳脂肪分3.0%以上、無脂乳固形分8.0%以上のものをいいます。
    一方、生乳から乳脂肪分の一部を除去するか、水分の一部を除去し、成分を濃くするなどの調整を行ったものは「成分調整牛乳」といいます。生乳の成分は乳牛の種類、個体、飼料、地域、季節、泌乳期などにより変動があり、乳脂肪分、無脂乳固形分は 夏に少なくなり、反対に冬に多くなる傾向があります。

  • 9.普通牛乳と低脂肪乳のエネルギー量の違いは?

    日本食品標準成分表の成分値によると、普通牛乳の脂肪分は3.8%、低脂肪乳は1.0%で、100gあたりのエネルギー量はそれぞれ67kcal、46kcalです。コップ1杯(200mL)あたりに換算すると、それぞれ138kcal、95kcalで、43kcalの差があります。低脂肪牛乳のエネルギー量は普通牛乳の69%、約7割になります。
  • 10.現在の日本人はカルシウムが不足している?

    日本人の食生活は豊かになり、主たる栄養素の必要な摂取量は充足され、一部では過剰な摂取も問題となっていますが、カルシウムの摂取量だけは一貫して不足しています。日本人のカルシウム摂取不足は長年に渡る問題で、いまだ に解決されていません。
    「日本人の食事摂取基準 2010年版」では、カルシウムは従来の「目安量」「目標量」から「推奨量」を目指すことに変更されました。
    一方、「2010年国民健康・栄養調査」によると摂取量は、乳児期を除くほぼすべての年齢層で推奨量に達していません(下表参照)。
    男女ともに学校給食がなくなる15〜19歳で大幅に減少していることがわかります。一生の骨量を決定するカルシウムの蓄積が最も盛んな成長期はもちろんのこと、カルシウムの骨からの流出を予防することが必要な青年期以 降も十分な摂取ができていないことは、将来のリスクを考えると非常に大きな課題であり、解決が望まれます。
  • 11.日本人に必要なカルシウム量はどれくらい?

    カルシウムの推定平均必要量と推奨量

    「日本人の食事摂取基準 2010年版」では、骨量を維持するために必要なカルシウムの推定平均必要量と推奨量を、要因加算法を用いて算定しています(上表参照)。
    推定平均 必要量は、性・年齢階級別の基準体重をもとにカルシウムの体内蓄積量、尿中排泄量、経皮的損失量を算出し、これらの合計を見かけの吸収率で割ったものです。 推奨量は、他の多くの栄養素と同様に個人間の変動係数を10%と見積もり、推定平均必要量を1.2倍したものです。

  • 12.牛乳のカルシウム含有量はそれほど多くないのでは?

    カルシウムの多い食品

    食品の栄養素の成分量の基準として、日本食品標準成分表が広く用いられています。成分表の数値では、カルシウムの含有量が牛乳より多い食品がありますが、1食分に換算すると、牛乳の含有量が抜きん出ています。成分表の数値は、食品100gあたりの含有量を示していますが、食品間の栄養成分量を比較する場合、1食分の量で比較しなくては現実的とはいえません(表参照)。
    例えば、サクラエビは2,000mg、干しヒジキは1,400mgで、牛乳の110mgと比較すると、それぞれ約18倍、13倍も多くカルシウムが含まれています。ところが1食分に換算すると、サクラエビ(8g)は160mg、干しヒジキ(8g)は112mgで、牛乳コップ1杯(200mL)の227mgと比較すると、サクラエビは約4分の3、干しヒジキは約2分の1と逆転しています。
    さらに、牛乳にはカルシウムの吸収率が他の食品に比べて高いというメリットがあります(次の図参照)。栄養素密度の高さ、摂取の手軽さなどを考え合わせると、カルシウムの補給源として牛乳は非常に優れた食品であることがわかります。牛乳はどこの家庭でも冷蔵庫に常備され、そのまま調理をしなくても摂取できる手軽な食品です。 コップ1杯(200mL)の牛乳で、成人が1日に必要なカルシウム量の約3分の1を摂ることができます。

  • 13.牛乳のカルシウム吸収率は他の食品に比べて高い?

    カルシウムの多い食品

    牛乳のカルシウム吸収率は40%と高く、カルシウムが豊富な小魚の33%、野莱の19%より優れています。
    日本人の成人女性(19〜29歳、平均21.4歳)を対象にした調査で、牛乳、小魚(ワカサギ、イワシ)、野菜(コマツナ、モロヘイヤ、オカヒジキ)でカルシウム量として400mgを4日間摂取し、各食品群別のカルシウム吸収率が検討されました。その結果、牛乳のカルシウム吸収率が一番高く40%でした。以下、小魚が33%、野莱は19%でした。
    各食品の1食分のカルシウム含有量に吸収率を掛け合わせると、牛乳コップ1杯(200mL)のカル シウム吸収量は91mg、イワシは1食分60gで14mg、コマツナは1食分80gで26mgと、牛乳の多さが際立っています。 もともとカルシウムは炭水化物やたんぱく質に比べて消化吸収率の低い栄養素です。しかも体内でつくることができないため、毎日食事から摂取しなくてはいけません。牛乳は身近に摂取できるカルシウム補給源として最適な食品といえるでしょう。

  • 14.牛乳のカルシウムの吸収率が優れているのは、なぜ?

    牛乳のたんぱく質から消化過程で生成するカゼインホスホペプチド(CPP)という物質には、カルシウムの吸収を促進する働きがあります。CPPは牛乳中のたんぱく質の約8割を占めるカゼイン(主としてαS1-カゼインとβ-カゼイン)が、小腸下部で酵素によって分解されて生成します。摂取されたカルシウムは胃の中で可溶化され、小腸で体内へ吸収されます。
    小腸は上部ほどpHが低く吸収されやすい環境にみえますが、小腸上部で吸収されるのは一部で、大部分のカルシウムは小腸下部まで移動します。下部にいくほど管腔内のpHが上昇(弱アルカリ)するので、一般 的にはリン酸と結合し、不溶化して吸収されにくくなります。
    CPPは小腸下部において、このカルシウムの不溶化を阻止し、腸内沈殿を防ぐことでカルシウムの吸収量を増やす作用があります。また、乳糖にもカルシウムの吸収を促進する働き(キレート作用)が認められています。そのメカニズムは、乳糖が小腸の腸壁のカルシウム透過性を高めるためだと考えられます。
    野菜に含まれるシュウ酸や、穀類・豆類に含まれるフィチン酸および食物繊維には、カルシウムの吸収を阻害する作用があります。牛乳にはこれらの物質がほとんど含まれていないことも、カルシウムの吸収率を高める要因となっています。

  • 15.牛乳に含まれるリンはカルシウムの吸収を妨げる?

    小腸内でのカルシウム吸収の模式図

    牛乳中のリンの多くはリンたんぱく質であるカゼインの構成成分(リン酸化セリン)として存在し、カルシウムを介してカゼインミセルの構成に寄与しています。
    カゼインの消化の過程で生じるカゼインホスホペプチド( CPP)は、小腸でのカルシウムの吸収を助けます。これは、CPPのリン酸化部位にカルシウムが結合して、腸内での沈澱・不溶化を防ぐからです。リンは、カルシウムの代謝に間接的に影響を与えると考えられますが、通常の食生活ではそれほど問題になることはありません。カルシウムとリンの摂取量の比率は1:0.5〜2の範囲であれば、カルシウムの吸収・利用に支障がないとされています。牛乳の比率は1:0.85であることから、カルシウムの吸収・利用になんら問題はなく、むしろ骨や歯の形成・維持に適切な割合となっています。
    なお、リンは加工食品の添加剤などに多用されています。インスタント食品中心の食生活を送っていると、リンの過剰摂取が心配されます。偏った食事にならないよう牛乳・乳製品を積極的に摂るなどして、常に栄養バランスを考えたいものです。

  • 16.牛乳の脂質はカルシウムの吸収を妨げる?

    カルシウムの吸収については、脂肪をはじめ摂取する食物の影響について、いくつかの報告があります。
    脂肪については、健康な人であればカルシウムの吸収に影響を与えません。ただし、部分的に胃を切除した患者さんや、吸収不良を患った患者さんの場合、飽和脂肪酸を多く含むパーム油はカルシウム吸収に阻害などの影響を与えますが、乳脂肪などの中鎖脂肪酸を含んだ油では影響がないことが報告されています。カルシウムが脂肪酸と不溶性の物質を形成し排泄させるためにカルシウム吸収量が減少するといわれていますが、牛乳脂肪由来の中鎖飽和脂肪酸はカルシウムの吸収に良いという報告があります。一方、2gを超えるようなカルシウムの大量摂取は、脂肪とカルシウムの排泄を促すことが示されています。牛乳中のカルシウムは、牛乳に含まれている乳糖やカゼインホスホペプチド(CPP)との共存により吸収が促進されます。牛乳はさまざまな成分を含んでいることから、脂肪によるカ ルシウム吸収への影響は少ないといえます。

  • 17.牛乳のカルシウムは、腎臓結石と関係がある?

    腎臓結石の大部分は、シュウ酸カルシウムの結晶です。食品で摂ったシュウ酸は体内に吸収され、腎臓から排泄される際に、カルシウムと結合して結石ができます。したがって長年、腎臓結石の予防には牛乳・乳製品などカルシウムを 豊富に含んだ食品の摂取を控えるように指導されてきました。
    しかし最近の研究では、カルシウムの制限が腎臓結石の予防に結びつかないということや、むしろカルシウム摂取量が増えると60歳未満の人では腎臓結石の発症数が減少するとの報告も出ています。 腎臓結石を予防するには、シュウ酸を多く含んだ食品を摂取するときに、同時にカルシウムを摂ると効果的であるという報告が出されています。
    シュウ酸とカルシウムを同時に摂取 すると、腸管内でカルシウムがシュウ酸を中和し、難溶性のシュウ酸カルシウムを形成し、シュウ酸塩の吸収を抑制します。そこで、シュウ酸塩の尿中濃度が低下し、腎臓で結石ができにくくなるというわけです。例えば、シュウ酸の多いコーヒー、紅茶、ナッツ、チョコレートには牛乳・乳製品を、ほうれん草、小松菜のおひたしには鰹節を組み合わせて摂ると、腎臓結石などの予防につながります。

  • 18.牛乳のカルシウムは、月経前症候群に効果がある?

    月経前症候群(PMS)は、生理の2週間前ころから精神的、肉体的に不快な症状が現れる病気です。正常な月経サイクルを持っている女性の約40%が、なんらかのPMS症状を有しており、うち約5%が重症例と推定されます。PMSの原因についての研究はまだ継続中ですが、各種の栄養素との関連について検討され、カルシウムが症状の軽減に有効であることが報告されています。PMS患者にカルシウムを増量して摂取させたところ、食物渇望、抑うつ傾向ならびに苦痛スコアが改善されたという報告もあります。今後さらに多くの症例で検証する必要はありますが、牛乳のカルシウムがPMSの改善に効果的であることを期待させる結果と考えられます。

  • 19.カルシウムを過剰に摂取すると健康を害する?

    カルシウムの過剰摂取によって起こる障害には、尿路結石、ミルクアルカリ症候群(後述)、他のミネラル(鉄・亜鉛・マグネシウム・リンなど)の吸収抑制、便秘症などが報告されています。
    カルシウムは、摂取量が増えると吸収率が低下し、摂取 量が少ないと吸収率が高まります。吸収率が低下するとはい え、カルシウムの摂取量が増えると体内への吸収量も増え、通常は骨形成が進み、常に血液中のカルシウム濃度を一定 に保つ調節機能が働きます。この調節機能を上回る量のカ ルシウムを摂取した場合に、過剰症が起こります。特に腎機能障害がある人では注意が必要です。しかし、通常の食生活で、カルシウムが過剰になることはまずありません。1日1パック(1,000mL)の牛乳を摂取しても、カルシウム摂取量は1,135mgです。現在の日本人の1 日あたりの平均カルシウム摂取量は510mg(2010年)程度と低いことを考慮に入れると、通常の食事ではカルシウムの過剰摂取になることはまずないでしょう。「日本人の食事摂取基準」に定められている耐容上限量の1日2,300mgを摂取しても、便秘症になる程度です。尿路結石の可能性はありますが、むしろ重篤な腎臓結石の発症リスクを低下させるという報告もあります。ただし、ビタミンDを同時に大量に摂ると腸 の調節力が失われ、危険です。
    最近では、不足している栄養素を健康食品やサプリメントで手軽に補おうとする傾向がみられます。カルシウム製剤などで一度に多量のカルシウムを摂取すると、上限量の2,300mgを上回り、血液中のカルシウム濃度が正常の範囲を逸脱して異常に高い値を示す高カルシウム血症、いわゆるミルクアルカリ症候群を生じる危険性があるため注意が必要です。

  • 20.牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするのはなぜ?

    牛乳を飲むとおなかにガスがたまる、ゴロゴロする、下痢をするなどの症状が現れるのを「乳糖不耐症」と呼んでいます。乳糖不耐症は、牛乳中の糖質である乳糖を消化する酵素(乳糖分解酵素=ラクターゼ=β-ガラクトシダーゼ)が少 ないか、働きが弱いため、乳糖が消化・吸収されずに大腸に送り込まれるため起こると考えられています。エネルギー源として役立つ乳糖が分解されずに大腸に運ばれると、腸内細菌が乳糖を分解してガスを出し、腸を圧迫したり、多量の水分が一気に大腸に送られ下痢をします。下痢をしてもカルシウムなどの栄養素は、その前に小腸できちんと吸収されています。
    乳幼児期は乳糖分解酵素の働きが活発なのですが、大人になるにつれて弱くなる人がいます。この傾向は特に有色人種に多く見られ、日本人の約1割にもこの症状があるといわれています。大人になってこの酵素の働きが弱まるのは決して病気ではなく、哺乳動物としては自然な状態なので、心配は要りません。

  • 21.日本人には乳糖不耐症が多い?

    乳糖の摂取量別の下痢発生率

    乳糖不耐症の診断基準は、欧米では乳糖50g(牛乳コップ5杯〈1,000mL〉相当量)を、日本では乳糖30g(牛乳コップ3杯〈600mL〉相当量)を一気に摂取したときの血糖値を計測して診断します。
    乳糖の摂取量と下痢発生に関する研究報告によると、乳糖による下痢発生割合は、それほど高くないことがわかりました。胃腸障害がなく、下痢や便秘症状を持たない人を対象に、乳糖を30g、40g、50g、60g摂取してもらい、下痢発生の頻度を検討したところ、30gでは下痢は観察されず、40gで11%、50gで39%、60gで55%に下痢が発生しました。
    ただ、乳糖50g、60gを1回に摂取するということは、牛乳ならば1,000〜1,200mLを摂取することになるので、実生活においてほぼありえないことです。
    社団法人日本酪農乳業協会の調査では、牛乳を飲むといつもおなかの調子が悪くなる人は6%、ときどき悪くなる人は8%弱でした。牛乳を飲んでおなかが張ったり、ゴロゴロしたりするのは、腸内細菌が乳糖を発酵する時に生成されるガスが原因です。この分解能力以上を摂取すると下痢を起こすことがありますが、このような症状を起こす人がすべて乳糖不耐症というわけではありません。冷たさに対する過敏反応のケースもあります。海外でも、乳糖は、コップ1杯程度の牛乳を飲んで発生する消化不良症状の主たる原因ではないと報告されています。

  • 22.乳糖不耐症の人が牛乳を飲むためには?

    牛乳を飲むとおなかの調子が悪くなる人は、温めて飲む、コーヒーやココアと混ぜて飲むなどの工夫をしていることが多いようです。
    人肌くらいに温めてゆっくり飲むと、胃腸に冷たい刺激を与えずにすみ、乳糖の分解酵素の働きも盛んになります。乳糖不耐症を改善するには、摂取量を少量ずつから始めて徐々に量を増やす、1日何回かに分けて飲む、コーヒーや紅茶などに混ぜて飲むなどの工夫をしてみてください。乳糖をあらかじめブドウ糖とガラクトースに分解してある乳飲料(乳糖分解乳、ラクターゼミルク)も市販されています。また、ヨーグルト製造に使用されている乳酸菌はラクターゼを産生しますので、生菌タイプのヨーグルト中にはラクターゼ 活性が残っており、乳糖の分解が進みます。その結果ヨーグルトは乳酸菌による発酵によって乳糖の20〜40%が分解されて減少しています。
    チーズは製造過程で乳糖の大部分がホエー(乳清)に移行して取り除かれているので、牛乳で下痢をする人に勧められます。

  • 23.牛乳の色はなぜ白い?

    牛乳の成分は、水分が約88%、乳糖が約5%、たんぱく質と脂肪がそれぞれ約3〜4%ずつとなっています。このうち、たんぱく質と脂肪が牛乳の色をつくり出しています。 牛乳1mL中には、水に溶けない乳たんぱく質であるカゼインがリン、カルシウムと一体になり、カゼインミセルというマクロ会合体の形で15兆個、また脂肪球が20〜60億個浮遊しています。 このたくさんの微粒子ひとつひとつに光が反射し、反射光が散乱するため白く見えるのです。

  • 24.牛乳のたんぱく質は、異種たんぱく質だから危険なの?

    異種たんぱく質の対語は同種たんぱく質です。ヒトが摂取するたんぱく質で唯一の同種たんぱく質は、乳児が摂取する母乳だけです。したがって、動物性たんぱく質の牛乳はヒト にとって異種たんぱく質になります。良質なたんぱく質の1つ といわれている大豆などの植物性たんぱく質は、動物性たんぱく質よりもさらに遠い異種となります。つまり、食品で摂取するたんぱく質は、動物性・植物性を問わず、すべて異種たんぱく質です。同種たんぱく質でなければ食品として危険というならば、共食い以外にはたんぱ く質の摂取法はありません。

  • 25.牛乳アレルギーはなぜ起こる?

    消化機能と免疫機能が未発達な乳幼児が牛乳を飲んだ場合、アミノ酸にまで分解されずに残った乳たんぱく質(β- ラクトグロブリンなど)の一部が体内に取り込まれて抗原(アレルゲン)となり、それに対する抗体ができます。再びそのたんぱく質を摂ったときに、下痢、湿疹、気管支喘息などのアレルギー症状を一過性に起こすことがあります。したがって1歳未満の乳幼児には牛乳を与えないほうが良いとされています。 牛乳アレルギーは生後2〜3ヶ月の乳児に発症しますが、一般に症状は軽く、多くは2〜3歳までに治癒してしまい、成人まで続くことはまれです。もちろん牛乳アレルギーが発症した場合には、牛乳の摂取は避けなくてはなりません。 なお、たんぱく質を含む食品は、すべてアレルゲンとなる可能性があります。厚生労働省では、発症例数が多いこと から「卵、乳、小麦、えび、かに」を、また発症したときに生命に関わるほど症状が重いものとして「そば、落花生」の計7品目を、アレルギー誘発物質を含む「特定原材料」として法令上表示を義務付けました。この他にも表示奨励品目として魚介類、肉類、大豆、果実類を含め18品目が示されています。これらの食材を食べる際には、アレルギー症状を示す方は特に注意が必要です。

  • 26.牛乳のコレステロールや脂肪は健康に悪影響を及ぼす?

    コレステロールは細胞成分やホルモンなどの基として生命維持になくてはならない物質であり、体内でも生産されています。その量は、体重50kgの人で1日あたり600〜650mgになります。 厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2010年版」では、食事からのコレステロール摂取の目標量(上限)を、30歳以 上の場合、男性750mg/日、女性600mg/日としています。日本人が1日に摂取しているコレステロールは約300mgで (2010年国民健康・栄養調査)、そのうち牛乳・乳製品か らの割合は約8%と非常に少なく、牛乳200mLに含まれるコレステロールはわずか25mgです。
    血清総コレステロール値は高すぎても低すぎても健康に良くないことが知られています。牛乳600mL 程度を3週間飲み続けても、血清総コレステロール値は増加しません。 また、牛乳の脂肪は栄養的に重要なエネルギー源であり、健康に悪影響を及ぼすことはありません。
    乳脂肪には、体内で合成されない必須脂肪酸、脂溶性ビタミン( A、D、E)などが含まれています。飽和脂肪酸を60〜70%と多く含み、中でもパルミチン酸( C16:0)などの二重結合のない中鎖飽和脂肪酸( n=12以上)が高い割合で含まれています。 また、オレイン酸( C18:1)などの1つの二重結合を持つモノ不飽和脂肪酸の多いことが特徴です。これらの中鎖脂肪酸は体に蓄積されにくいことが見出されています。
    脂肪は体にとって重要な栄養素ですから、動物性脂肪、植物性脂肪にこだわることなく、バランス良く毎日摂取することが大切です。

  • 27.牛乳中の共役リノール酸とはどのような脂肪酸?

    共役リノール酸( CLA)は反芻動物乳から見つかった不飽和脂肪酸で、牛乳中の平均的なCLA含量は、全脂肪酸の0.3〜0.6%と報告されています。飼料組成、ルーメンの微生物菌叢や季節によっても含量は異なります。 CLAは、リノール酸と同じく2つの二重結合を持っていますが、二重結合の位置が共役していて、リノール酸のように必須脂肪酸としての機能は持っていません。 CLAには多様な生理作用があり、とくにがん抑制作用、脂質代謝、免疫調節作用、骨代謝への影響、2型糖尿病予防作用などが報告されています。 動物実験では、CLAのがん抑制効果が多数示されてきていますが、ヒトでの疫学研究では、いまだ確かな結果は得られていません。また、多くの動物実験から、CLAが体脂肪の減少に有効との報告がありますが、ヒトでの研究結果では健常者、肥満者いずれにおいても有意な体重減少は観察されていません。

  • 28.乳脂肪中のトランス脂肪酸は有害?

    常温で液体のあぶら(油)と常温で固体のあぶら(脂)をまとめて油脂といいます。油脂は、脂肪酸とグリセリンという分子からできています。脂肪酸は炭素原子が鎖状につながった分子で、グリセリンに3個の脂肪酸がつながったものを「ト リアシルグリセロール(またはトリグリセリド)」といいます。 通常、私たちが食べている油脂の成分の多くは、このトリアシルグリセロールです。油脂は人間の体のエネルギー源になるほか細胞をつくるためにも必要であり、食事から適量を摂取することが大切です。
    脂肪酸には、炭素の二重結合がない飽和脂肪酸と、二重結合のある不飽和脂肪酸の2種類があり、不飽和脂肪酸は、炭素の二重結合のまわりに結合している水素の向きによって「シス型」と「トランス型」の2つに分けられます。 天然の不飽和脂肪酸のほとんどはシス型で存在していますが、水素添加の工程(常温で液体の植物油や魚油などから固体・半固体の油脂を製造する工程の1つ)で、一部がトランス型に変化します。したがってトランス脂肪酸はマーガリンやショートニングなどに比較的多く含まれています。 天然のトランス脂肪酸もあります。反芻動物のルーメン内で微生物の働きによって作られるもので、体脂肪や乳中に含まれています。牛乳中のトランス脂肪酸は「バクセン酸」といい、ウシの体内や、牛乳を摂取したヒトの体内で共役リノール酸(CLA)に転換されるといわれています。
    トランス脂肪酸を摂りすぎると、健康に悪影響を及ぼすことがわかっています。具体的には、悪玉といわれるLDLコレステロールが増加し、善玉といわれるHDLコレステロールが減少します。また、日常的に多く摂取し続けると、冠動脈性心疾患のリスクが高まることが知られています。 自然界に存在するトランス脂肪酸と、水素添加により生成するトランス脂肪酸とで生理機能に差があるか否かについては、現時点では明らかになっていません。
    WHOは、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%以下にするよう勧告しています。脂肪摂取量の多い一部の国や地域では、食品中のトランス脂肪酸含有量に上限値を設けたり、含有量の表示を義務化するなどの取り組みを行っているところもあります。 日本では、現在、食品中のトランス脂肪酸について表示の義務や含有量に関する基準値はありません。日本人の場合、農林水産省の調査(2005〜2007年度)によると1人1日あたりのトランス脂肪酸摂取量は0.92〜0.96gと推定され、これは平均総エネルギー摂取量の0.44〜0.47%に相当します。このため、トランス脂肪酸による健康リスクは低いと 推定されます。ただし、偏った食生活をしている場合は、平均値を大きく上回る摂取量となり、リスクが高まる可能性も あるため、栄養バランスの良い食生活を送ることが大切です。

  • 29.牛乳には便秘を予防する効果がある?

    ヒトの腸内には1,000種類、100兆個を超える細菌が生息 しています。これらの細菌は腸内で相互に関係して、腸内フローラという生態系を形成しています。 腸内細菌には消化・吸収を助けて腸内環境をきれいにする善玉菌と、腐敗物質をつくり体に害を及ぼす悪玉菌およびその中間に位置する中 間菌の3種類があり、お互いに拮抗しあっています。 牛乳に含まれる乳糖は難消化性のため、一部は未消化のまま大腸に到達して、そこで腸内細菌による発酵を受け、有機酸を生じます。酪酸など有機酸のあるものは大腸壁細胞の栄養源となり、また腸内のpHを酸性側に傾かせて、いわゆる善玉菌優位の腸内環境をつくります。 これらの有機酸は、回腸や大腸を刺激し腸の蠕動運動を高め、便秘の改善に寄与しています。また、乳糖は腸内の浸透圧を高め、平衡化するために周囲から水分を取り込み、腸内の内容物を軟らかくする働きもあり、スムーズな排便を促進します。 最近の研究によると、悪玉菌を抑えて善玉菌を増やすこと は、便秘の解消・整腸作用だけでなく、腸の老化を遅らせ、さまざまな腸管由来の感染症やがんなどの病気の予防につながることが明らかにされています。 牛乳には、乳糖以外にも、善玉菌の代表であるビフィズス菌の増殖を助ける成分として微量のミルクオリゴ糖やカゼインの消化物も含まれています。

  • 30.牛乳には美肌効果がある?

    牛乳・ヨーグルト・チーズの摂取後4週目の肌の自己評価(スタート前との比較)

    牛乳に含まれているいろいろな栄養素には、女性にとって気になる美肌効果が認められています。 2004年、日本酪農乳業協会では、20代の女性を対象に、牛乳・乳製品と美肌の関連性について調査を行いました。
    調査方法は、4週にわたり牛乳・ヨーグルト・チーズのいずれかを1日3回摂取する体験者群(20名)と、非体験者群(10名)に分けて、スタート前と4週目に肌の状態を自己評価してもらいました。 その結果、体験者群は非体験者群に比べて皮膚の潤いが改善され、保湿力が高まり、脂っぽさが減少したと報告されています。
    牛乳中に含まれるビタミンAは皮膚や粘膜などの表皮細胞を正常に保つ作用があり、ビタミンB2はたんぱく質や脂質、糖質の代謝に関係し、健康な皮膚や毛髪、爪をつくります。ニキビや吹き出もの、皮膚炎の防止にも役立ちます。 また、カルシウム不足はストレス感受性を高めるとされ、カルシウムの摂取はストレスからくる肌荒れの予防効果が期待されます。さらに乳糖は、腸内の善玉菌の栄養源となって善玉菌を増やし、悪玉菌を減らして腸内細菌のバランスを改善する働きがあります。 その結果、便秘による肌荒れも防ぐことができます。

  • 31.牛乳は貧血や腸内出血と関係がある?

    1981年、「牛乳貧血」という症例が日本で初めて報告されました。牛乳の多量摂取(症例では幼児期に牛乳を1日600mL以上3ヶ月以上にわたって摂取)によって、他の離乳食の摂取量が少なくなり、その結果、鉄欠乏状態となって胃腸管粘膜に種々の変化をもたらし、また多量の牛乳たんぱ く質がこれら粘膜に影響を与え、その悪循環によって鉄欠乏性貧血、さらには低蛋白血症がもたらされるのではないかと考えられています。
    牛乳コップ1杯(200mL)に鉄分は0.04mgしか含まれません。一方、日本人の鉄分摂取の推奨量は、1〜2歳児で1日あたり男性4.0mg、女性4.5mg、成人男性で1日あたり7.0〜7.5mgであり、牛乳だけで必要鉄分を摂取することは不可能です。したがって、「牛乳だけの食生活では鉄分は不足する」ことはあきらかで、幼児期の牛乳だけに頼った食生活は極めて危険です。離乳後の幼児には、鉄分を十分に含む食事によるバランスの良い栄養摂取が大切です。
    近年、鉄欠乏による障害が世界的に深刻な問題となっています。鉄欠乏による病気として鉄欠乏性貧血はよく知られ ています。「貧血」と診断されるに至る前の鉄不足、鉄欠乏の状態が持続するだけで、いろいろな神経機能の異常が生じます。この状態は早期に鉄が補給されれば回復も可能ですが、鉄不足が幼児期の早い時期であるほど、また不足の状態が持続するほど、鉄補給による機能回復は認められなくなり、予後が悪くなります。
    乳幼児期に消化機能や免疫機能が未発達な状態で毎日大量の牛乳を摂取していれば、アレルギーによる腸管出血を起こす可能性も否定できません。こうなれば鉄分不足どころか鉄分の喪失を伴い、極めて危険な事態となるため注意が必要です。

  • 32.牛乳は白内障と関係がある?

    極めてまれな先天性疾患のガラクトース血症以外、牛乳の摂取によって白内障になるというデータはありません。
    白内障は眼の水晶体が濁り視力が低下する病気で、高齢 者に多く発生します。65歳では60%が白内障の症状を呈するといわれています。 白内障の最大の要因は老化(加齢)で、それ以外に疾病、光(活性酸素生成)、薬物、外傷、先天 性代謝異常なども影響します。
    このうち牛乳の摂取と関係があると考えられるのが、ガラクトース血症という先天性代謝異常で、極めてまれな遺伝性疾患です。牛乳中の乳糖が、小腸でラクターゼという酵素によってブドウ糖とガラクトースという単糖に分解されますが、このガラクトースの代謝に関連する酵素が欠損している場 合、血中のガラクトース濃度が高まります。これをガラクトース血症といいます。発症頻度は国により異なりますが、およそ5万人に1人くらいの発症率となっています。 ガラクトース血症では、ガラクトースが眼球の水晶体でアルドースレダクターゼという酵素によりガラクチトールになり、これが結晶となって析出する結果、水晶体が白濁し白内障になるといわれています。
    ガラクトース血症は劣性遺伝するもので、症状には軽いものから重いものまでありますが、通常は家族歴で出産前に予測するか、新生児で発見され、母乳や乳児用調製乳を避け、乳糖あるいはガラクトースを含まないミルクを与えることで、正常な発育が可能になっています。1977年度からマススクリーニングが実施されていますが、ガラクトース血症患者の発生数、発生率には一定の経年的な傾向は認められていません。
    動物実験でラットにヨーグルトを摂取させたところ、白内障が発生したという報告がありますが、この実験におけるラットのヨーグルト摂取量は、体重60kgのヒトに換算すると1日21.6kg〜24kgと非常に極端な条件の実験で、現実離れした摂取量です。したがって、通常の食生活における摂取量で白内障が起こることはないでしょう。

  • 33.牛乳中のビタミンB+12は、乳幼児の脳の発達や高齢者の認知症に影響する?

    ビタミンB12不足は脳の発達だけではなく、アルツハイマー症候群などの老人性の認知症にも関与していると報告されています。 ビタミンB12は、牛乳・乳製品、肉、魚、卵などの動物性食品からしか摂取できないビタミンです。赤いビタミンといわれ、赤血球の合成を促進するビタミンとして知られていましたが、最近、脳の発達やアルツハイマー症候群など老人性の認知症にも関わっていることが注目されています。
    海外で実施されたビタミンB12欠乏児(菜食主義の母親に育てられた小児を含む)に関する調査では、身体および脳の発育不全、貧血、過敏症、食欲不振などの症状が報告されています。6歳までの成長過程でビタミンB12が欠乏していると、その後ビタミンB12を摂取していても、欠乏によって生じた障害は改善されませんでした。 ビタミンB12の摂取量が低い人たちは、推理力、抽象的思考力および学習能力を測定する知能テストで有意に低いスコアを示したという報告も出ています。しかし、通常の状態では欠乏症になることは極めてまれです。
    ビタミンB12の欠乏は、60歳を超えると増加し、アルツハイマー症候群ではしばしばビタミンB12の欠乏が認められています。ただし、ビタミンB12の欠乏を伴う認知症では、ビタミンB12を投与しても症状は改善されないという結果が出ています。 日頃から牛乳・乳製品などでビタミンB12を摂取することが大切であることを示しています。

  • 34.牛乳は潰瘍性大腸炎やクローン病の発症と関係がある?

    潰瘍性大腸炎、クローン病は若年者に多く発症している 難病で、厚生労働省では特定疾患に指定しています。両疾患は異なる病気ですが、共通点も多く炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれています。 潰瘍性大腸炎の患者数は、2009年度は113,306人(特定疾患医療受給者証交付件数)と報告されており、毎年8,000人ほど増加しています。
    米国の100万人と言われている患者数に比べると10分の1程度ですが、増加傾向にある ことが心配されます。 クローン病の患者数(医療受給者証交付件数)は、1976年には128件でしたが、その後増加し続け、2009年度の登録数は30,891人となっています。人口10万人あたり約23.3人という割合ですが、欧米に比べると10分の1程度です。 厚生労働省は、潰瘍性大腸炎およびクローン病と食事との相関について報告しています。肉類、脂肪、砂糖、菓子などの過剰摂取および野菜、果物、食物繊維の摂取不足による西洋食を主とした偏った食事は、腸内の善玉菌の減少を招き、腸粘膜の炎症を誘起し、腸内有害細菌の大腸粘 膜進入を容易にします。細菌の粘膜進入があると免疫反応が生じ、その結果、炎症反応を起こし、炎症性の腸管疾患が発症すると考えられます。両疾患の糞便細菌叢において、Bifidobacterium、Lactobacillusをはじめとする偏性および通性嫌気性菌の減少、好気性菌の増加が示されています。
    潰瘍性大腸炎、クローン病は、若年者の肉類に偏った食生活に起因する生活習慣病と考えられます。牛乳が両疾患の発症に直接的に関わっているとは認められていません。偏った食生活を改め、バランスのとれた食生活を送ることが大切です。

  • 35.牛乳は1型糖尿病と関係がある?

    牛乳が1型糖尿病の直接的原因とは認められていません。1型糖尿病の病因については、今後の解明が待たれます。 糖尿病には1型(インスリン依存性)糖尿病と2型(インスリン非依存性)糖尿病があります。1型は膵臓にある膵島のβ細胞が何らかの原因で損傷され、その結果インスリンの分泌が低下、ないし欠損するために発症し、2型は肥満などが原因で耐糖能が低下して発症します。β細胞が破壊される原因として、ウイルス感染や自己免疫反応など諸説があります。
    自己免疫は、遺伝的素因がある人で、食物たんぱく質の抗体が原因となるという考えがあり、特に牛乳たんぱく質は人工栄養で生後初期に用いられることから原因として重視され、1型糖尿病の小児で牛乳たんぱく質に対する抗体価が高いという報告があります。しかし、このことが1型糖尿病の原因なのか、単に相関があるだけなの かは、さらなる研究が必要です。日本における小児の1型糖尿病の発症頻度は、1988〜1989年で人口10万人あたり1.5人で、この値は欧米白人の10分の1から30分の1です。この差異の原因としては、日本人では1型糖尿病発症についての感受性を高める遺伝子型の1つが極めてまれであることがいわれています。一方、日本人でも患児では、牛血清アルブミン、β-ラクトグロブリン、卵アルブミンに対するIgA、IgG抗体価が有意に上昇していたとする報告があります。しかし、この報告は平均14.5歳であること、特定たんぱく質についてのみ検討していることから、乳児期の栄養法との関係、他の食物たんぱく質についてのさらなる検討が必要でしょう。
    牛乳は育児用調製粉乳の主成分であり、人工栄養児では生後早期に与えられるため、上記のように牛乳たんぱく質が問題とされることがあります。わが国の母乳栄養の比率は、1950年代後半で60%、その後低下して30%以下になり、1975年以降は母乳栄養が見直され再び増加してきました。これに伴って育児用調製粉乳の使用量も増減しました。
    1型糖尿病の発症頻度はこれと関係がないという報告もあります。母乳栄養が減少しても1型糖尿病の頻度が上昇しなかったからといって、牛乳たんぱく質がまったく関与しないとはいえないので、白人でのデータに注意して、日本人でも1型糖尿病が増加しないように対応する必要があるでしょう。 少なくともわが国では牛乳が1型糖尿病の直接的原因とは認められていませんが、現時点では仮説ながら牛乳のβ-カゼインの遺伝子多型がヒトの1型糖尿病の発症に関連するとの報告があり、今後研究を進める必要があります。

出典

社団法人 日本酪農乳業協会 牛乳・乳製品の知識