あなたにぴったりの牛乳は?

食品としての牛乳の機能性

牛乳に備わる三次機能の効果

「三次機能」とは

食品の持つ役割には、一次機能(人間が生きるために必要な栄養を供給する機能)、二次機能(感覚に訴え食欲を増進させる機能)、三次機能(生体調節機能)の3つがあります。
三次機能は免疫系、内分泌系、神経系、循環器系などに働きかける機能です。体内ではこれらの調節機能が複雑に働き合って、環境の変化に対応し、健康を維持しています。
最近の研究によると、牛乳は一次機能と二次機能に加え、三次機能も備わった優れた食品であることが明らかになってきました。牛乳に期待できる三次機能とはどのようなものなのかをみていきましょう。

免疫系の調節

免疫系は、体内に侵入してきた病原体やウイルスを、血液中の抗体や白血球が攻撃して分解し、自己防御するためのシステムです。牛乳には、この免疫系を活性化し、抵抗力をつけて病気になりにくい体をつくるとともに、免疫系の行き過ぎを防ぎ、炎症作用やアレルギー症状を抑えて調節する働きが期待できます。
免疫系の機能は、病原菌やウイルスなどの異物を取り込んで分解するマクロファージとリンパ球の連携プレーで成り立っています。リンパ球には、異物を認識し、感染した細胞を分解するT 細胞と、T 細胞が認識した抗原に対して抗体を作り出すB細胞があります。
牛乳のたんぱく質成分のカゼインが消化されて生じるカゼインホスホペプチ ド( CPP)には、T 細胞やB細胞を活性化して、抗体の産生を促進する働きがあります。一方、カゼインの構成成分であるκ-カゼインや、その消化によって遊離するパラ-κ-カゼインとカゼイノグリコペプチド(CGP)は、リンパ球の増殖を抑えて抗体の産生を抑制します。このことは、アレルギー反応のような過敏な免疫反応を調節する効果もあることを示しています。また、κ-カゼインにはアレルギー反応を起こすヒスタミンの放出を抑制する働きもあります。

病原菌の感染予防

人間の母乳には、免疫グロブリンやラクトフェリンが含まれ、細菌やウイルス、アレルギーの原因となる異種たんぱく質の侵入を防ぎ、新生児を感染から守る働きがあります 。同じようにウシの初乳にも免疫グロブリンが多く含まれています。これを生まれたばかりの子牛に飲ませることで免疫力を高め、ウイルス性の下痢症を防ぐことが知られています。
また、ラクトフェリンには、サルモネラ菌や病原性大腸菌の増殖を抑える作用のあることが確認されています。
牛乳に期待できるのは、さまざまな生理機能物質です。
細菌の細胞膜を分解して破壊するリゾチーム、細菌の増殖を防ぐ作用があるラクトペルオキシターゼなどの酵素、細菌やカビなどの感染性微生物を取り込んで分解するマクロファージなどです。乳脂肪から派生する脂肪酸にも感染防御作用があるといわれています。

コレステロールの役割

整腸作用

人間の腸管内には1,000種類、100 兆個を超える細菌が生息しています。腸管内では常に、消化吸収を助け腸内を浄化する善玉菌と、有害物質や 病原菌を増殖させる悪玉菌とが下図に示すように拮抗し合っています。最近の研究では、いかにして善玉菌を増やし悪玉菌を抑えるかが、生活習慣病や発がんなどを防ぐ要因の1つであるこ とがわかってきました。その善玉菌を優勢にするための食品として考えられる のが牛乳・乳製品です。
牛乳に含まれる乳糖は、腸内細菌の働きによって乳酸や酢酸に変換されると、腸のぜん動運動を高めて便秘を防ぎ、便を柔らかくする働きがあります。さらに悪玉菌が生産するアンモニアや アミンなどの腐敗物質や、発がん物質の増殖を防ぎます。また、牛乳に含まれるたんぱく質のκ-カゼインの分解物質カゼイノグリコペプチド(CGP)には、善玉菌を増殖させる作用もあります。 人間の腸内で善玉菌として多く存在し、有用な働きをするのがビフィズス菌です。ビフィズス菌が多いということは健康のバロメーターにもなるほどです。ビフィズス菌は老化やストレス、食生活の乱れなどで減少するため、いかにビフィズス菌を増やしていくかが健康維持には大切な要因になります。
牛乳に含まれる乳糖は、ビフィズス菌の栄養源になり、カゼイノグリコペプチド(CGP)はビフィズス菌の増殖を促進する作用もあります。

善玉菌と悪玉菌

血流の改善

血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなると脂質異常症を招き、動脈硬化やさまざまな病気を引き起こします。牛乳に含まれるホエーたんぱく質にはコレステロールの合成を阻害する作用があり、また高コレステロールの食品を摂取したときに、その吸収を抑制する働きもあります。
牛乳はコレステロールが高いと思われがちですが、その値は100g中12mgです。脂質異常症の人が目標とする1日のコレステロール摂取量は300mg以下とされており、牛乳コップ1杯(200mL)を飲んだとしても、そのコレステロール値は25mgで全体の8%に過ぎません。
牛乳は、吸収率に優れたカルシウムや良質のたんぱく質なども含む栄養素密度の高い食品です。他の食品でそれらの栄養素を同じ量摂取しようとすると、必要以上のコレステロールを摂る可能性があります。コレステロールが高いという思い込みで牛乳を敬遠するのは、もったいない話です。
コレステロールはとかく悪者扱いされがちですが、上の表に示すように生命を維持していくためには欠かせない成分で、ステロイドホルモンの材料になったり、脂肪の消化を助ける働きもあります。過剰摂取には注意が必要ですが、不足すると細胞膜や血管がもろ くなり、脳出血や神経障害などを引き起こす原因をつくります。血中コレステロールを適量に保つためにも、コレステロールや脂質をほどよく含む牛乳は、好ましい食品の1つといえます。
また、エネルギーの過剰摂取や動物性脂肪の摂り過ぎもコレステロール値を上げる原因となりますが、栄養素密度の高い牛乳はエネルギーのコントロールに役立ちます。動物性脂質に関しても、日本人の平均摂取量は1日あたり27.1g(国民健康・栄養調査2010年)で、その最大供給源は肉類や魚介類です。牛乳・乳製品のそれは全体の8%前後に過ぎません。

高血圧の改善

カルシウム摂取量と高血圧発症頻度の関係

日本人に多い高血圧症の90%は、原因が特定できない「本態性高血圧」と呼ばれるものです。本態性高血圧は、遺伝的因子を背景に環境的因子 が加わって発症しますが、その環境因 子で最も大きいのが食事です。
高血圧を招く食事因子といえば、食塩の成分ナトリウムの過剰摂取がよく知られるところです。血圧が上がるメカニズムはまだ完全に明らかにされていませんが、ナトリウムが血液循環量を増やし、心拍出量を増加させるためという説があります。
ナトリウムの血圧上昇作用を妨げる働きがあるとして注目されているのがカルシウムです。1971〜75年に米国で行われた調査によると、カルシウムの摂取量が多いほど、高血圧の頻度が低いという結果が報告されています。調査では、カルシウム摂取量が1日あたり300mg以下では高血圧例が11〜14%であったのに対し、1,200mg 以上では3〜6%でした(上図参照)。 日本で行われた疫学調査でも、カルシウムの摂取量が少ないと、高血圧や脳卒中の発生が増加すると報告されています。
カルシウムが血圧を下げるメカニズムについては詳しく解明されていませんが、カルシウムがナトリウムの排泄を促進することが要因の1つといわれています。
腎臓から分泌されるたんぱく質のアンジオテンシンから分解酵素レニンの作用でアンジオテンシンⅠがつくられます。アンジオテンシンⅠはアンジオテンシンⅠ変換酵素(ACE)の作用でアンジオテンシンⅡがつくられ、強い血圧上昇作用を示します。最近の研究では、牛乳のカゼインが消化されてできるペプチドのいくつかの成分が、この変換酵素の働きを阻害すると考えられ、結果的に血圧の上昇を防ぐと考えられます。

高血圧の改善

心地良い眠りには、精神的な安定と落ち着きが何よりも必要です。微弱ながら誘眠作用のあることで知られるのが必須アミノ酸の1つ、トリプトファンで、鎮痛や鎮静作用を持つ神経伝達物質セロトニンの原料となります。
トリプトファンは、さまざまな食品のたんぱく質に含まれていますが、中でも消化吸収に優れた牛乳は、睡眠前の摂取に最適といえます。また、母乳中のたんぱく質が消化酵素によって分解されたペプチドには、神経を鎮静化する働きがあることが解明されています。牛乳のたんぱく質も、酵素で分解すると数種類のオピオイドペプチドが含まれます。オピオイドペプチドは鎮静作用を示すペプチドの総称でもあり、神経を落ち着かせ、睡眠を促進する作用があるといえそうです。ただし、詳細はこれからの研究に委ねられます。
一般的に知られているのが、牛乳に多く含まれるカルシウムが交感神経の働きを抑えることです。イライラや不安、緊張などは自律神経の交感神経が優位のときに起こりがちです。そんな時は、温めた牛乳をゆっくり飲むと、気分がリラックスできます。24時間活動型の現代社会では、便利さとともにストレスも増え、睡眠不足になったり、浅い眠りしか得られなかったりして、体のだるさや体調不調を訴える人も少なくありません。自然で心地良い眠りのために、牛乳の機能が改めて注目されています。

出典

社団法人 日本酪農乳業協会 牛乳・乳製品の知識